社会学的ラブソングアーカイブ

はてなダイアリー終了に伴う「社会学的ラブソング」アーカイブ。

海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録

「海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録」(平野義昌/苦楽堂)
読んだ。
「海文堂血風録」でもなければ「昔はよかった今はダメだ」
「俺達こんなに凄かったんだぜ!」でもない
淡々と、でも語りたいところはアツくなる所が
平野さんのお人柄なんだろうなぁ。
すぅーっと引き込まれて読んでいった。
海文堂の歴史は神戸文化の歴史でもあり、出版業界の歴史でもある。
しかし海文堂でも、新刊入荷は厳しかったのか。
こだわりの棚作りと独特の空気で、あんまり感じなかったのだが。

正直なところ、実はそんなに海文堂に馴染みがあったのかというと
そうでもないような気がする。
この本を読んで初めて知った事も沢山ある。
自分にとっては、”よそ行き”な本屋だった。
普通に雑誌とか買うとこじゃなくて、もっとマニアックというか
”他では買わない本”を買うとこ、みたいな。
実際には文庫の最新刊も雑誌も買ってるけど、それじゃ勿体無い、みたいな。
そういう意味で特別だったのかも。
恐らく閉店を知って買いに走った方の中には、常連ではないけれど
そういう特別な存在だった方も沢山あったんだろうなぁ。

そして海文堂閉店に熱狂したのは、”終わる事”を知る事が出来た方が
多かったからかもしれない。
神戸の他の本屋、”終わる事”を知らなかったから。
気づいたら無くなってた。
震災の所為もあるし、たまたま自分が知らなかっただけだろうけど。
(コーベブックスは教えて貰ったのだったか。)
無くなって初めて有難みが分かる事は沢山あるけれど
海文堂は何とか間に合った。
特に最近の元町って、さらっと閉まっちゃう事が多いし。
他でも老舗の閉店ニュースって、閉店当日の記事で知る事が多い。
海文堂の店員さん達にとっては知らされて閉店するまで短かったと
思うが、お客さんにはまだ時間あった方じゃないかな。
「ちょっと長いおわりに」の中で熊木さんが分析されているけれど
個人的にはプラス「さよならの儀式が出来た」からだと思う。
神戸新聞に取り上げられる等して早く知る事が出来て、
本を買う、「何でやねん」って店員さんに言う・・・等
それぞれの”さよなら”が出来たし
SNSで「聞いて聞いて、こんな寂しい事あってん」って
遠くの誰かにも言えるし、
それをキーワードで引っ掛けた同志みたいな誰かが「うんうん」って
聞ける。
拡散したのは店長さんの言葉の一部だけじゃない、
海文堂が特別だった人の寂しさ、感謝もだ。
それがハッピーなニュースだったらよかったのにな・・・。

しかし本が売れなくて経営者が従業員養っていけませんーって
とっとと閉店決めちゃう時代。
本が売れないだけじゃなくて音楽周りも厳しいし
スポーツも厳しいとこあるし。
じゃあ、お金はどこに流れていってるんだろうね?
収入も減ったし・・・ってそれはワシだけか。